日時:令和3年4月5日(月)
場所:奏楽堂
式次第 | |
令和3年度入学式 第一部 (対象:学部?別科入学生) 1.開式 2.入学許可 3.学長式辞 4.学長?部局長紹介 5.閉式 |
令和3年度入学式 第二部 (対象:大学院入学生) 1.開式 2.入学許可 3.学長式辞 4.学長?部局長紹介 5.閉式 |
令和2年度入学の式典 第一部 (対象:学部?別科新2年生) 1.開式 2.学長式辞 3.学長?部局長紹介 4.閉式 |
令和2年度入学の式典 第二部 (対象:大学院新2年生) 1.開式 2.学長式辞 3.学長?部局長紹介 4.閉式 |
4月5日(月)、奏楽堂にて令和3年度入学式が挙行されました。また、入学式が中止となった新2年生(2020年度入学生)を対象に令和2年度入学の式典が行われました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、いずれも式典を2回ずつに分け、対象となる学生のみが参加して行われました。
今年度の新入生は、学部471名、大学院修士課程405名、大学院博士後期課程50名、大学別科29名の総勢955名。
式典の冒頭では、澤和樹学長と各部局長のキャラクターたちが出演し、バーチャルな上野キャンパスを案内するアニメーションが上映されました。
開式は、音楽学部 廣江理枝教授よる「バッハの前奏曲 ハ長調 BWV547」(J. S. バッハ)が演奏され、荘厳なパイプオルガンの響きが会場を満たしました。 また、澤学長のヴァイオリンと廣江教授のパイプオルガンの共演による「G線上のアリア」(J. S. バッハ)が演奏されました。
式辞では、この1年を振り返り、コロナ禍の厳しい環境の中で過ごし、試練を乗り越えてきた新入生の入学を祝い、また新2年生に対しては、「1年遅れとなったが、本学の一員として迎えられた喜びを、共に分かち合える機会を持てたことを嬉しく思う」と述べました。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今日ここに皆さんを東京藝術大学の一員として迎えられたことを大変嬉しく思い、教職員を代表して心よりお祝いを申し上げます。
ご家族の方々にも、心よりお慶び申し上げます。
皆さんは、昨年春先からの新型コロナウィルス感染拡大を受け、大学受験の極めて大切な時期をこれまで経験したことがないような厳しい環境の中で過ごしてこられたと思います。
高校や予備校の閉鎖、専門実技のレッスンや制作指導もオンラインによるなど、万全な状態では受けられなかったのではないでしょうか。また、本来であれば、重要な勉強の場でもある美術館やギャラリーの閉鎖、コンサートやオペラが中止となる中で、仲の良い友人たちと会うこともままならず、大きな試練の連続であったと思います。そうした試練を乗り越えての藝大入学だけに喜びもひとしおだと思います。ただ、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだコロナ収束の実感には程遠く、安心して勉学に没頭したり大学生活をエンジョイしたりするにはしばらく時間がかかりそうです。
コロナウィルスは、人類に大きな災いをもたらしていますが、同時にわれわれに多くの気付きやチャンスも与えてくれているのかもしれません。
「万有引力」の発見者アイザック?ニュートンはケンブリッジ大学の学生だった20代前半に、ペストの大流行により大学が2年間にわたり閉鎖となり、故郷の田舎で巣ごもり生活を余儀なくされていました。この間にニュートンは自らを見つめ直す時間を得て、当時の常識では考えられなかった「万有引力」や微分積分理論などを発想できたといわれています。
試練を克服することが、科学者や芸術家にとっては、大きな飛躍につながる可能性を秘めているようで、私は「試練は芸術を育てる」という言葉を信じています。
皆さんはこれまで藝大入学を目標に、何をおいても、自分の専攻する実技を磨くことに専念してきたのではないでしょうか? その姿勢は、入学後も、さらには卒業後も続けてゆくべきものですが、同時に、各分野の一流の先生方や学生の集まる東京藝大ならではの環境を生かし、在学中に他分野との新しいチャレンジも経験して欲しいと思います。
先ほど、皆さんがこの奏楽堂に入場された時に上演されていたのはクラシック音楽の中でも特に人気の高いヴィヴァルディの「四季」に映像研究科のプロデュースで、世界的な4人のアニメーション作家に音楽に相応しいアニメーションを制作してもらいました。さらに企業との共同開発で、AI(人工知能)が生演奏に同期して画像を送り出す上映システムを作り出しました。先ほどお聴きいただいたのは生演奏ではなく録音した音源ですが、画像の方はリアルタイムでその音源に同期しています。演奏者が代わって微妙にテンポや間の取り方などが違ってもAIが感知して画像を同期させてくれます。また、式典開始直前の、私自身や学部長、研究科長の「ゆるキャラ」が登場して、この奏楽堂に向かった映像は、この春からスタートしたバーチャルの世界で藝大のキャンパスや奏楽堂を体験できる「東京藝大デジタルツイン」です。これらは、藝大の美術、音楽、映像そしてアートプロデュースを担う国際芸術創造研究科という4つの分野のコラボレーションによって生まれてきたもので、今後、学生の皆さんの作品や演奏も、デジタルツインの大学美術館や奏楽堂で展開し、世界に向けて発信してゆくことも可能です。
先ほど、式典の冒頭では奏楽堂が誇るパイプオルガンで音楽学部器楽科オルガン専攻教授の廣江理枝先生による「バッハの前奏曲 ハ長調」を、そして私がヴァイオリンで加わってバッハの「G線上のアリア」を聴いていただきました。「G線上のアリア」は、昨年4月に緊急事態宣言が初めて出された頃に、医療従事者や日常生活を支えるエッセンシャルワーカーの皆様への感謝とエールという意味で「Life.」というYouTube動画を流し、今も多くの方々に視聴していただいています。この曲は「癒し」の効果がある代表的な曲ともいわれています。
先日、あるテレビ番組で???具体的には「チコちゃんに叱られる」ですが???「ランニングやジョギングの際に音楽を聴いている人が多いのは何故?」という質問でしたが、その中で1分間に120拍くらいが、最も疲労を感じにくい???という専門家のコメントが紹介されていました。1分間に120拍というテンポは、私が学生のころは、パチンコ屋に入ると必ず「軍艦マーチ」が大音量で鳴っていて、これを演奏の際のテンポ設定の目安にしていた時期もありますが、今は、時代変わってAKBの「恋するフォーチュンクッキー」が目安となっています。先ほどの、癒しの音楽、「G線上のアリア」は1分間にだいたい72拍のテンポで、4分の4拍子です。
中国医学では昔から「一息四脈」といって、ひと呼吸の間に4回の脈を打つ状態が健康な状態といわれているそうです。1分間に18回の呼吸数、その4倍の72回の心拍数というのは、成人の平均的な安静時とほぼ一致するようで、クラシックの「癒し系」の音楽の多くがゆったりとした4分の4拍子で書かれていることと、人間の生理的な心地よさには何か関係がありそうです。藝大では芸術が医療や福祉など様々な場面で社会に貢献できることに取り組んでいます。
私は Arts meet Science (芸術と科学の出会い)をAMSプロジェクトと名付け、科学や医学との結びつきにより、芸術の価値をよりわかりやすく見える形にしたいと考えています。5年前に始まったこのプロジェクトの最初のイベントでは世界的チェリスト、ヨーヨー?マさんも加わり、「芸術と科学に共通するバックグラウンドは何か?」というテーマで演奏やシンポジウムを行いました。現在は東京大学や慶應義塾大学の医学部、東京工業大学の学生たちも加わった学生同士の勉強会も活発に行われています。また、先ほどの「四季」のアニメーションのAI同期上映システムもそうですが、伝統的な文化財保存修復技術と、高度なデジタル技術の融合による「スーパークローン文化財」、障がい者と健常者が共に音楽や芸術を楽しめる空間を提供する「インクルーシブアーツ」など、芸術と最先端のテクノロジーを融合させた新たな取り組みや、「芸術と福祉」の視点で、多様な人々が共に生きる社会環境の創出を目指す「Diversity on the Arts Project(通称:ドアプロジェクト )」など、企業との連携で様々な実験的な取り組みが行われ社会的にも大きな評価を得ています。
このように芸術の新しい価値を見出すことによって、学生や卒業生の活躍の場を積極的にプロデュースしてゆくことが大学に課せられた使命であると考えています。これからの学生生活でのさまざまな出会いによって、皆さんの豊かな感性が更に磨かれ、東京藝大の新たな伝統に繋がってゆくことを期待して私の式辞といたします。
本日はおめでとうございます。
令和3年4月5日
東京藝術大学長 澤 和樹