東京藝術大学は、新型コロナウィルス感染症の感染拡大を抑制するという世界的な課題に対応するため、政府が行った緊急事態宣言及び自治体による休業要請等も踏まえ、授業の開始日を遅らせ、当面は教職員も在宅勤務とするなどの対策を講じています。
現在、人類が置かれている状況は、人と人が集い、生の音楽を聴き、あるいは、間近で美術、映像作品を鑑賞する場を奪い、芸術を通じて得られる感動を他者と分かち合うことを不自由にしています。私自身、門下生に直接会ってレッスンを行えず、さらには長年の活動を記念する特別演奏会等も延期せざるを得ず、大変辛く、苦しい思いで日々を過ごしております。
しかし、このような苦境にあっても、東京藝術大学の歩みを止めるわけにはいきません。
東京藝術大学の使命は、高い専門性と豊かな人間性をもつ芸術家、芸術分野の研究者、教育者を養成することです。新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴う厳しい状況にあっても、本学はこの使命を果たすべく、学生と教職員の健康と安全を守りつつ、創立来初めて遠隔授業を行うべく、遠隔授業検討ワーキンググループを立ち上げて準備に取り組んでおります。
学生に芸術の「技」を授け、実践活動を通じた学びを提供することがその教育の基盤である本学にとって、オンラインで授業を行わなければならないことは、極めて残念であり、通常と全く同じ教育活動を展開するのは困難であると言わざるをえません。ましてや教員でありアーティストでもある我々の多くは、日頃から「生演奏によるコミュニケーション」「身体を通して造ること」などにこだわって仕事をしてきましたので、オンラインで指導しなければならないことへの戸惑いと歯がゆさも感じています。
しかしながら世界は、この事態に対応すべくオンラインなどであらゆる行動に対処すべく工夫を凝らしていて、今やこれらが世界標準と言っても過言ではありません。東京藝術大学としても、これらを踏まえ新しい芸術の在り方を構築する必要があるのではないかと考えます。
遠隔授業は、初めての試みですので最初のうちは計画通りにいかない部分もあるかもしれません。しかし、試行錯誤を繰り返す中で「オンラインの方が学生一人一人の顔が良く見えて密なやりとりができる」という発見や、「普段できないオンライン展覧会をできないか」などのアイディアも生まれてきています。遠隔授業を受けやすいよう、どのように学生の皆さんをサポートする体制をとるかもあわせて検討しています。
教職員一丸となって、東京藝術大学ならではの遠隔授業をお届けできるよう全力を尽くしてまいりますので、ご理解とご協力を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、皆さんご自身とご家族の健康を心よりお祈りします。そして、大学や劇場、美術館、博物館などで皆様に再会し、生の芸術を通じた感動を分かち合える日が一日でも早く来ることを願っております。
2020年4月23日
東京藝術大学長 澤 和樹